メルカー緊急輪状甲状膜切開セットと豚喉頭を用いた輪状甲状膜切開講習

 

葉山ハートセンター麻酔科、筑波大学医学部麻酔科、

神戸大学院医学研究科災害・救急医学分野

野村岳志、山下創一郎、中尾博之

 

われわれは、DAM(Difficult Airway Management)ワークショップ(WS)で豚喉頭を用いた緊急時輪状甲状膜切開の講習を開催している。当初は直接切開法のみのWSであったが、輪状軟骨の破損や気管内膜の粘膜損傷などが多く、受講者も手技の理解・習得に難渋する。最近、メルカー緊急輪状甲状膜切開セット(以下メルカーセット、内径4.0mm、Cook社製)を用いたWSの開催を始めたのでセットを用いた輪状甲状膜切開の安全性や教育方法について報告する。

WSの進行は、1)緊急時輪状甲状膜切開の適応、方法とその合併症、2)豚喉頭の解剖学、3)セットの使用方法、4)豚喉頭の表面を豚皮で覆い、輪状甲状膜の位置確認、5)講師によるデモンストレーション、5)各自実習(約5回のセットを使用した輪状甲状膜切開)6)実習後は豚喉頭の解剖を行い気管内膜の性状、損傷を確認、としている。15名の受講生が使用した15個の豚喉頭の解剖所見にてメルカーセットの安全性について確認した。豚喉頭の観察点としては、穿刺の部位(正中、輪状甲状膜部の正確性)、気管内膜損傷の頻度とした。

受講者に実患者さんにおいてメルカーセットを使用した経験のある医師はいなかった。穿刺・カテ挿入部位が一度も正中穿刺でなかった喉頭が4個、穿刺部位が輪状甲状膜でない喉頭が3個、気管内粘膜の損傷を認めた喉頭が3個確認された。しかし、軟骨離断や気管外留置など、重篤な合併症につながる損傷は認めなかった。

まとめ:豚喉頭を使用したWSから、輪状甲状膜穿刺にてガイドワイヤーを使用して挿入するメルカー輪状甲状膜切開セットによる手技は、比較的安全に行える手技と考えられた。セルジンガー法を用いて血管内カテーテル留置を頻回に行う麻酔科医は、メルカーセットの習得が早く教育効果も高いと推察する。