フルスケール患者シミュレータの過去・現状と未来2009

−全国の大学を対象としたアンケートの結果−

 

1兵庫医科大学中央手術部、2兵庫医科大学麻酔科学教室

上農喜朗1、宮川慈子2

 

2003年に大学医学部麻酔科関連領域におけるシミュレーション教育の状況をアンケート調査・報告した(日本臨床麻酔学会誌 2004, 24: 375-88)。2004年以降、新臨床研修医制度が導入され、OSCEACLSなどのシミュレーション教育と評価法の普及し、医療安全に必須である医療のスタンダード化が推進されることにより、医学教育におけるシミュレーション教育の重要性が注目されるようになった。今回、前回とほぼ同じ質問内容でアンケート調査を行い、麻酔関連領域におけるシミュレーション教育がどのように変化したかを検討した。

回答率は51.3%で前回の76.3%を下回った。施設の構成スタッフはシミュレータを使用している施設(以下、FPS施設)のほうが、上級スタッフが有意に多く、この傾向は2003年のジュニアスタッフの差が、6年経過したことによって上級スタッフに移動したためと考えられる。麻酔科管理症例数では、今回の調査ではFPS施設で有意に少なかった。

今回の調査では、使用シミュレータに中機能患者シミュレータであるECSSimManが登場した。これによって、シミュレータ専用の設置場所やガス配管など特殊な設備を持たない施設が増えた。教育対象別実施プログラムでは、2003年にほとんど行われていなかった標榜医(認定医)・専門医に対する利用が行われるようになった点が注目される。シミュレータを使用した教育に関する評価は、2003年には大変有効であるという評価が最も多かった(68.2%)が、今回の調査では一段下の「有効である」(64.3%)が最も多くなった。稼働率に関しては、前回の週当たり3.7時間からさらに低下して2.5時間となった。

患者シミュレータを麻酔専門医の認定や更新、研修医や学生の評価に使用できるかどうかに関して、大部分が可能(2003年:49.2%2009年:58.5%)、または条件付きで可能(2003年:26.2%2009年:24.4%)であると回答した。今後、米国麻酔科関連領域にならって教育プログラムを認定し、シミュレーション教育を専門医認定に取り入れていくためには、どのような課題を解決する必要があるかを検討する必要がある。

【謝辞】日常に臨床・教育・研究にお忙しい中、調査にご協力いただきありがとうございました。