教育講演(01

吸入麻酔薬の最新の知見

札幌医科大学医学部麻酔科

 

山蔭道明

 

吸入麻酔薬は,鎮静・鎮痛・筋弛緩と,麻酔の3要素を持ち合わせることから,麻酔科医にとっては使いやすい麻酔薬として古くから利用されてきた。最近,バランス麻酔という概念が普及し,より使いやすい麻薬性鎮痛薬や筋弛緩薬が臨床使用できるようになった。しかし,それでも使いやすい “鎮静薬”としての役割は色あせるものではない。その理由として,手軽であるということ以外に,調節性と安全性を挙げることができる。年齢によって麻酔の力価が多少異なるものの,人工呼吸管理を必要とする全身麻酔であれば,体重や肥満度,あるいは肝腎機能を考慮しなくとも麻酔を調節できる。 現在,最も臨床で使用されている吸入麻酔薬はセボフルランであるが,臨床応用されてから20年近く経つ現在でもその利用価値は高い。一つには,吸入麻酔薬がもつ心筋保護作用を挙げることができる。また,セボフルランは呼吸に及ぼす影響も他の吸入麻酔薬と異なり,メリットも大きい。例えば,ラリンジアルマスクなど自発呼吸を温存した麻酔管理が普及しているが,その時の麻酔薬としても非常に有用である。その理由として,気道刺激性が極めて少ないことを挙げることができる。吸入麻酔薬による麻酔の導入が可能なのも,導入の早さ以外にこの特徴によるところが大きい。さて,最近,本邦においてもデスフルランの臨床治験が異例の早さで終了した。今回の講演では,今まで臨床使用されてきたセボフルランのエビデンスに基づく特徴を,デスフルランと比較しながら述べてみたい。