教育講演(02)

今日から使える!麻酔科医に必要な胸部単純X線写真の知識:術前、術後からICUまで

聖マリアンナ医科大学救急・放射線医学横浜市西部病院放射線科

松本純一

 

 

本講演では、麻酔科医が胸部単純X線写真(以下胸部単純)を読影するにあたり、重要かつすぐ使えるようなポイントを紹介していきたい。

1)胸部単純の基礎:立位と臥位の違について

立位胸部単純正面像と比べた場合、臥位胸部単純には以下の特徴がある。

・縦隔影や心陰影が拡大される(前後撮影のため幾何学的に拡大される)。

・肩甲骨が上肺野に重なる。

・横隔膜の頂部がやや外側へ(腹圧により押し上げられるため)。

・下部頚椎の棘突起は円形ないし楕円形(立位では ^ 型。前後の撮影方向の違いによる)。

      女性では、乳房組織が脇へながれる(立位の場合には乳房組織の輪郭が明瞭)。

2)ポータブル胸部単純の意義とその特徴

ポータブル胸部単純の対象が院内で最も重症な患者であることや、それがその患者にとって唯一の画像検査である可能性があることを考えると、その読影には正確さが本来求められるべきであるし、その画像検査は質が保たれるべきである。また、ポータブル胸部単純は臨床像と照らし合わせて読影することで様々な情報を提供してくれる。

 

ポータブル胸部単純の特徴として、以下の点が挙げられる。

・管球エネルギーの低い撮影装置:条件が悪くなりやすい。

・短い焦点距離、前後方向の撮影:上縦隔・心陰影が拡大される。

・患者の体位や呼吸の深さが一定しないため画像の解釈や比較が難しい。

・撮影者が一定しない:画質や条件が不安定。

・正常所見も異常所見も立位の時と異なる:正常でも肺血管影はより目立つようになり、胸水は背側、気胸は腹側に分布するため通常の画像所見と異なる。

 

3)カテーテル・チューブ類の正しい留置位置と合併症の画像診断

留置されているカテーテル・チューブ類の位置は読影の際、必ず確認する。

・気管内チューブ:気管分岐部5±2cm

・中心静脈カテーテル:右房の手前2cmの上大静脈内。

Swan-Ganzカテーテル:肺葉枝分岐部手前。

・胸腔ドレナージチューブ:刺入部から緩いカーブを描いて走行。

      胃管:側孔も含めて胃内に。

 

4)重要な病態の画像所見:肺気腫、胸水、気胸、肺水腫、ALI/ARDS

・肺気腫:血管影の疎らさ透過性の不均一さに注意して読影。

・胸水・気胸:臥位では肺底領域の透過性と所見の組み合わせで判断。

・肺水腫:特徴的画像所見の理解が大切。意外と読影できない。

ALI/ARDS:画像で診断するものではないが特徴的画像所見と病態生理の理解は重要。