教育講演(03

すぐに役立つ輸液の知識

埼玉医科大学総合医療センター麻酔科

 

宮尾秀樹

 

麻酔中の輸液は血管内輸液、間質への輸液、細胞内への輸液の3本立てで考える。血管内輸液は膠質液(例:6HES70/0.5)、間質輸液は細胞外液(例Na, Cl 154mEq/L)、細胞内輸液は維持液(例:Na 35mEq/L, K 20mEq/L, 4.3%ブドウ糖)である。投与量と速度に関してはこの中で計算できる輸液は細胞内輸液だけで、周知の4-2-1rule(Holliday Segarの式を/時で簡略化したもの)を用いる事ができる。この4-2-1ruleをベースに、麻酔による血管拡張を考慮した相対的な前負荷分、サードスペース分、出血分を細胞外液や膠質液で追加する。古典的な細胞外液大量投与は最近は否定的である。輸液のモニターとしては血圧、脈圧、脈拍、尿量、中心静脈圧、末梢温、外頚静脈のはり、粘膜の湿潤度などが古典的なモニターであるが、最近ではTEEによるLVEDVの直接測定、輸液チャレンジによるSV増加程度、動脈圧の呼吸性変動による輸液評価が研究されている。演者は晶質液はやや浸透圧の高いマルト−ス加乳酸リンゲル液をベースとして、麻酔による相対的なhypovolemiaに対する負荷や出血の補いにはHESを積極的に使用している。輸液のモニターとして最も重要なのは尿量で、1ml/kg/hを目標としている。この尿量が正常腎血流量の目安であるし、腎のautoregulationの閾値が他の重要臓器よりも高いことから尿量は全身の重要臓器血流維持のモニターとして最適だからである。また酸素代謝も輸液のモニターとして重要である。静脈血酸素飽和度、乳酸値が重要なモニターになる。