教育講演(07

有害事象に直面した!次の一手は? −HPSシナリオからの紹介−

旭川医科大学麻酔科蘇生科

 

藤本一弘

 

麻酔管理は平穏無事に済むことをみんなが望んでいるはずである。しかし実際に様々な患者を管理していると、時として生命を脅かすような危機的有害事象に遭遇することがある。こんな時は大変戸惑うがどうすれば戸惑わないか?予想外のことだけに準備は難しい。この場合結構役立つのは過去の経験である。同様の事象を過去に経験したか否かの差は大きい。ベテランがベテランたる由縁は経験値の多さゆえである。まれな事象の対応をどう訓練するか?症例報告を読むなどしてイメージトレーニングはできるが、その有用度は実体験に遠く及ばない。そこで、高性能シミュレータの登場である。他人が体験した症例でも、リアルな設定で現場を模倣すれば、実体験にかなり近づく可能性がある。我々は、HPSHuman Patient Simulator)を用いてさまざまな危機管理について学生・研修医・麻酔科医等に教育している。本講演では、HPSで我々の用いているシナリオ例を紹介しつつ、シミュレータトレーニングの有用性について述べたいと思う。【シナリオ例】66歳、女性。身長154cm、体重58kg。交通外傷にて救急外来搬入時、意識状態JCS 100、血圧110/78、心拍88SpO2は酸素6l/min投与により98%であった。画像診断にて、急性硬膜下血腫、左肋骨骨折、左血気胸と診断された。左胸腔ドレーンを挿入後、開頭血腫除去術を行うことになった。手術開始後脳外科医から、脳が腫れていて血液が黒いとの指摘があった。その時点で、収縮期圧が68mmHg、心拍数120bpm SpO289%であった。胸腔ドレーンからの出血、エアーリークはなかった。