教育講演(08) |
小児麻酔科学の発展:昔の常識が現代の非常識に |
静岡県立こども病院麻酔科 堀本 洋 |
麻酔科学に限らず小児麻酔科学も急速な発展を遂げつつある。したがって昔の常識が今現代の小児麻酔臨床にあてはまらない状況も多くなってきている。従来の説に満足せず新しい手技、概念にチャレンジしてくれたこれまでの麻酔科学研究者の努力に敬意を表するところである。 私が麻酔科医となった頃と比べて最も大きく変化したのは小児に対する麻酔方法ではないだろうか?その頃「小児は神経系が未発達であるから痛みの感じ方も成人と異なり、鈍いのだから」と鎮痛に関してそれほど注意が払われていなかった。したがって新生児は亜酸化窒素、筋弛緩薬のみで計算表を元に麻酔管理されるのがハイテクである、と誤解されていた。現在ではもはや揮発性吸入麻酔薬も決してオールマイティな麻酔薬ではなくなり、小児に於いてもバランス麻酔としてそれぞれの目的に合った薬剤の使われ方がしており、鎮痛に重きが置かれるようになってきているのは非常に好ましい。 また大きく向上した点は、小児の術後の痛みに対して十分な配慮がされるようになってきたことであろう。子どもが痛がって泣いていても「泣くほど元気があるのだから安心だ」とベッド上で手、足を縛られ、大泣きをしていたものである。家族も手を出せずにオロオロするばかりであった。しかし今や好ましいことに麻薬、鎮痛補助薬、局所麻酔薬を駆使して小児患者の術後疼痛管理が重要視されるようになってきている。 麻酔中に使用される麻酔関連器具も手術の進歩に伴い変化している。腹腔鏡手術が低年齢から行われるようになり、昔は若年者には禁忌であるともされていたカフ付き気管チューブが症例によっては積極的に用いられるようになっている。 |