教育講演(09

麻酔の児(胎児、新生児、小児)への影響

国立成育医療センター手術集中治療部

 

角倉弘行

 

妊婦が妊娠経過中に手術を受ける事は決してまれではなく、その際の麻酔の胎児への影響が長らく議論されてきたが、最近ではさらに不妊治療や胎児治療、分娩時の鎮痛処置(無痛分娩)、新生児期の長時間手術、幼児期の複数回手術など児(胎児、新生児、幼児)が麻酔に暴露される機会が増加しており、麻酔が児に与える影響が様々な角度から検討されている。妊娠初期の器官形成期に手術が必要となった場合には、麻酔薬の催奇形性が懸念されるが、最近の研究では一般的に使用される麻酔薬(笑気、ベンゾジアゼピンを含む)は通常量では催奇形性を有しないことが確認されている。不妊治療に際しては、各種麻酔法と成功率の検討がなされている。また体外受精による児で循環器系の奇形の発生率が高いとの報告があるが麻酔との関係は明らかでない。胎児治療では、児の不動化を目的に母体を経由してベンゾジアゼピンやレミフェンタニルなどの麻酔薬を投与する試みがなされている。無痛分娩では、鎮痛のために用いられる麻酔薬の新生児への影響や、硬膜外麻酔による母体の発熱が児に与える影響、無痛分娩を受けた産婦の授乳の成功率などが議論されている。また最近では発達段階にある神経細胞が麻酔薬に暴露されることによりアポトーシスが誘導されるとの報告が相次いで、胎児期から新生児期の麻酔への暴露が児の神経学的発達に与える影響が議論されている。さらに最近では、幼児期(4歳まで)に複数回の麻酔を受けた児では学習障害の割合が増加するとの研究も報告されている。講演では、これらの麻酔の児への影響について最新の知見を紹介する。