教育講演(13

ivPCAの理論と実際ーモルヒネとフェンタニルの比較ー

自治医科大学附属さいたま医療センター麻酔科

 

長田 理

 

 我が国でも超短時間作用性鎮痛薬レミフェンタニルが利用できるようになり,全身麻酔の術後管理は大きく変化した。全身麻酔中の循環動態は従来よりも格段に安定すると共に覚醒遅延を経験することは希であるが,一方で速やかに明瞭な覚醒が容易に得られるようになったため,従来の覚醒状態では問題となることが少なかった術後疼痛管理の重要性が再認識されることになったためである。 良好な術後疼痛管理を実現するには,手術部位(局所)での鎮痛が不十分な領域を全身性の鎮痛薬で対応する必要があるため,鎮痛効果の調節性がよいフェンタニル・モルヒネなどオピオイド鎮痛薬が利用されている。しかしながら,鎮痛薬の必要量には個体差が大きく,画一的な投与量プロトコルでは過量投与/過小投与となることが避けられない。この問題を解決するには,痛みが強くなった時に患者自身が鎮痛薬を投与する「患者自己調節鎮痛法patient-controlled analgesia (PCA)」が望ましく,数多くのデバイスが開発されることで手軽に利用可能なものとなった。とはいえ,標準的な投与プロトコルがいまだ確立されているわけでもなく,患者自身が強力な鎮痛薬を投与することに対して安全性への疑問(過量投与の危険性)や心理的抵抗が根深く残っていることも事実である。 そこで本講演では,モルヒネとフェンタニルを使用した静脈内投与による患者自己調節鎮痛法(iv PCA)を取り上げ,両者の違いを通じてivPCAの特徴と臨床応用における注意点について紹介したい。