教育講演(14

周術期の体温管理

京都府立医科大学大学院医学研究科麻酔科学教室

 

溝部俊樹

 

人類の誕生の時から生命の源であり証でもあると考えられてきた体温。小学生でもその恒常性と正常値を知っている体温。このバイタルサインの中で最もポピュラーな体温について、我々は、実はあまり多くを知らない。基礎分野では体温中枢は未だにブラックボックスであり、末梢受容器に至っては未だに同定さえされていない。しかし逆に考えれば近々ブレークスルーの起こりそうな研究分野であるとも言える。

人体を熱伝導体と考えると、平均比熱は、0.83なので、常温の輸液7本(水の比熱は1)で、或いは4度のMAP12単位(血液の比熱は0.87)で、体温は約1度下がることになる。

1996年のKurzらの報告以来、周術期の低体温が患者さんのアウトカムに悪影響を与える可能性が広く認知された。その結果、アメリカでは、医療の質改善協会(IHI)が行っている“500万人を救おうキャンペーン”での手術部位感染(SSI)予防のための4つの行動目標の中に「術後正常体温の維持」という項目が入るまでになった。しかし未だ米国疾病予防管理センター(CDC)SSI予防ガイドラインの中には含まれていないのが現状である。

さて、アミノ酸輸液が術中の体温低下防止に有効であるとのSelldenの報告以来、数多くの関連した研究が発表された。アミノ酸輸液製剤には20種類弱のアミノ酸が含まれているが、その中で体温保持効果を示すアミノ酸を同定する我々の研究が頓挫した頃、我が国の2つの製薬会社において、別々にそして密かにそのためのプロジェクトが始まっていた。ようやく特許の問題がクリアーできる段階となったのでその結果についても紹介したい。