教育講演(18

自己血回収装置:産科領域、悪性腫瘍領域での使用

帝京大学医学部麻酔科学講座集中治療部

 

水野 樹

 

洗浄式回収式自己血輸血は、手術中あるいは後の出血を回収し、赤血球のみを返血する成分輸血である。危機的大量出血時の対応に優れ、遊離Hb、活性化凝固因子、活性化炎症成分、ヘパリン、Kなどの余剰薬液成分をほぼ除去可能で、感染症、アレルギー反応、血液不適合輸血の危険性がない。専用装置として、セルセーバ5/5プラス、オーソパットシステム(ともにヘモネティクス社)、エレクタ(ソーリン社)、AUTOLOG(メドトロニック社)、C.A.T.S(フレゼニウス社)、ブラット2(コーブ社)などがある。

帝王切開における回収式自己血輸血は、羊水塞栓症の危険がある。しかし、臨床的に羊水塞栓症の報告例はない。120μmフィルターと白血球除去用フィルターの使用で扁平上皮細胞や細菌や胎児由来のラメラ体は少なくなる、40μmフィルターの使用で胎児胎盤由来の成分は検出されない、羊水を別吸引で廃棄し回収血を濃縮洗浄処理することでαフェトプロテインは効果的に除去される、濃縮洗浄処理後の白血球除去用フィルターの使用で絨毛組織や扁平上皮細胞を除去できるなどの報告がある。2007年のASAの産科麻酔の実践ガイドラインでは、危機的大量出血時の血液製剤不足または血液製剤拒否の場合には回収式自己血輸血を推奨している。

悪性腫瘍に対する回収式自己血輸血は、播種の可能性がある。悪性腫瘍細胞の除去方法として、細胞の比重差を利用した遠心分離、抗腫瘍薬の添加、白血球除去用フィルターの使用、放射線照射法が考案されてきたが、完全除去は不可能であり、抗腫瘍薬の添加法では赤血球内への移行残存の問題がある。白血球除去用フィルターと放射線照射の併用法では悪性腫瘍の完全除去が可能とされる。