教育講演(19

狭窄気道へのアプローチ

大阪大学大学院医学系研究科麻酔・集中治療医学講座

 

萩平 哲

 

気管や気管支などの気道が気道内外の腫瘍などにより狭窄を来している患者の麻酔管理はある意味では挿管困難よりも難易度が高い.具体的な例としては,気管内に突出した腫瘍や肉芽腫の切除やレーザーによる焼灼術,狭窄に対する気道内ステント挿入術,さらには甲状腺腫瘍や巨大縦隔腫瘍,動脈瘤などによる気道外部からの圧迫による狭窄を有する患者の全身麻酔管理などが挙げられる.これらの手術では,調節呼吸による換気および酸素化の維持が行なえる保証はない.一方で自発呼吸を残した管理も安全とは言えない.人工呼吸によって酸素化の維持が困難である場合にはECMOPCPSもしくは人工心肺などの補助循環によるサポートの考慮が必要となる.これらの補助循環の適応の可否は個々の症例により異なると考えられる.麻酔科医はこのような症例に対して周術期の呼吸管理法や補助循環の適応などについて術前から外科医と合同で綿密な打ち合わせをしておくことが重要である.補助循環を使用する場合には抗凝固が必要となるため可能であればその使用を避けることが望ましいが,状況によっては酸素化の維持を優先して使用されることもある.補助循環の設備を持たない施設では他施設への転送も考慮するべきである.またレーザー焼灼術では気管チューブなどへの引火による気道熱傷を回避するために焼灼時の酸素濃度を適切に調節するなどの対応が必要がある.

現時点では狭窄気道への対応法に関して明確なガイドラインは存在しない.本講演では狭窄気道を有する症例へのアプローチに関して術前診断,術前準備から術中の対応法まで,一般的な戦略から具体的な方法までを解説したい.