教育講演(20

すべての臨床医が知ってほしい睡眠時呼吸異常の基礎

千葉大学大学院医学研究院麻酔学

 

磯野史朗

 

睡眠中のいびきや無呼吸などは、われわれが想像する以上にありふれた睡眠時の呼吸パターンである。あまりにも日常的であるのでしばしば病的とは見なされない場合も多く、臨床医にも病気としての認識は希薄である。過去20年の精力的な研究により、睡眠時の呼吸異常が様々な疾患と関連することが明らかとなっている。閉塞型睡眠時無呼吸(OSA)は高血圧の独立危険因子であり、二次性高血圧の最も多い原因である。重篤なOSA患者を適切に治療しない場合、虚血性心疾患や脳卒中などの心血管系イベントによる死亡や治療の必要性が生じる可能性が高く、突然死の発生率も高い。nasal CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸)による治療は、これらの循環系合併症予防に有効であることが示されている。単にいびきのうるさい人とはかたづけられない重要な疾患なのである。2005年にはアメリカ麻酔科学会もOSAの周術期管理ガイドラインを示し、周術期におけるこの疾患の重要性を強調している。睡眠時呼吸異常の90%以上はこのOSAであり、頻度的には少ないが臨床医が認識すべきもう一つの睡眠時呼吸異常のパターンとして中枢性無呼吸あるいはチェーンストークス呼吸がある。特に慢性心不全患者に合併するこの呼吸異常はnasal CPAPなどの治療により、呼吸パターンのみならず心機能も改善することが示されている。睡眠医学は比較的新しい領域であり、多くの臨床医は系統的な教育を受けていない。本講演では、臨床医が知っておくべき代表的な睡眠時異常呼吸疾患の基本病態、診断、治療について概説する。