教育講演(21

若手医師(研修医)の医学論文作成のポイント

広島大学大学院医歯薬学総合研究科病態制御医科学講座麻酔蘇生学

 

河本昌志

 

どの道であれ,初学者にとっては,これまで授かってきた知識や技術は全て先人達の不断の努力によって獲得されたものであり,自ら開発したあるいは経験したものは少ない.しかし日々臨床や研究をしていると,何らかの新しい知見や疑問は絶えず生まれる.過去に類似の報告は無いかと調べてみれば,既に報告されたものもある一方,全く該当がないような事柄もあろう.さてどうすべきか.医学の進歩発展のためには,この新しく見いだした知見は,後輩や同僚に,時間を超え,空間を超えて伝えるべき義務があろう.その手段は,いくら情報化技術や伝達手段が進歩しても,われわれの思考が言語により成り立っている以上,文字で記録することが最も普遍性の高い方法である.そういう観点から,常日頃,若手医師には積極的に症例報告や原著論文を書いてほしいと願っている.ここでは,これからそうした作業に取りかかる人達のために,その方法,即ち論文の書き方について述べる.内容は,限られた時間の中で,雑多な内容を盛り込むつもりで,およそ以下のように予定している.すなわち,論文を書く理由,書くべき種類と内容,論文執筆の倫理,論文の執筆技術,論文の基本構成要素,日本語の文章の注意点,単位系,論文を書く過程,論文の書き方,図表の作成と単位表現,論文の推敲の仕方,などである.科学論文には美文は必要ない.如何に意図を正確に伝達できるかが論文作成のポイントになる.ここではそのためのノウハウを提案したい.