教育講演(29

蘇生後脳低温療法

岡山大学病院麻酔科蘇生科

 

武田吉正

 

脳低温療法は「興奮性アミノ酸放出、頭蓋内圧亢進、フリーラジカル産生、等」を抑制し、脳に保護的に作用すると考えられている。動物実験では有効性を示すデータが数多く報告されている。2002年、New England Journal of Medicineに軽度脳低温療法の臨床研究が2編報告された。ヨーロッパ(HACA study、症例数275人)で行われたRandomized controlled trial は蘇生成功105分後から冷風で体表を冷却し6時間後に目標温の33℃に到達している。低体温を24時間継続し神経学的予後の有意な改善を報告している。オーストラリア(77人)で行われたRandomized controlled trialは蘇生成功直後から氷で体表を冷却し2時間後に目標温の33℃に到達している。低体温を12時間継続し神経学的予後の有意な改善を報告している。これらの報告により脳低温療法は心停止蘇生後患者の神経学的予後を改善する有効な治療法であると認識されている。現在、脳低温療法は「安定した温度管理」「脳低温療法の早期導入」を目的に様々なトライアルが行われている。「安定した温度管理」を行うため体表にジェルパッドを貼り付ける機器や、大腿から挿入した中心静脈カテーテル内に冷却液を潅流する機器が開発販売されている。また、「脳低温療法の早期導入」を行うため冷生理食塩水を急速静注する治療法や、咽頭や鼻腔を冷却し脳を選択的に冷却する機器の開発が行われている。