教育講演(30

脳脊髄循環からみた中枢神経保護

岐阜大学大学院医学系研究科麻酔・疼痛制御学

 

飯田宏樹

 

脊髄が機能障害に陥る病態には外傷・圧迫・虚血等様々な要因があるが、麻酔科医は麻酔方法を含む適切なモニタリング環境を維持し、適正に脊髄灌流圧を維持することによって脊髄循環を良好にコントロールし、脊髄障害の発生・増悪を防ぐ役割を担っている。脊髄血管の反応性の特徴を踏まえた上で、脊椎手術・大血管手術に分けて脊髄保護法の特徴を概説する。脊椎手術では術中脊髄機能障害を防ぐために運動誘発電位(Motor-Evoked Potential: MEP)モニタリングやwake-up testが施行される。MEPは麻酔薬や筋弛緩薬によって抑制され、一方wake-up testは意思疎通の難しい患者にとって困難である。したがって、信頼性の高いMEPを得ると共にwake-up testの施行の両立を図る工夫に関して、当院の脊椎手術時の脊髄機能モニタリングのアルゴリズムを示す。また、大血管手術においては、大動脈遮断時に、安易に薬物で血圧を下げると大動脈遮断遠位部の血圧低下また脳脊髄圧の上昇を招き、このことが脊髄灌流圧の低下に伴う脊髄灌流障害の増悪を引き起こす。それに対して脳脊髄液のドレナージを行うことによって脊髄灌流圧を上げて、脊髄血流を改善させ脊髄保護をはかろうという試みがなされている。また薬理学的脊髄保護に加えて、短時間の先行する非致死的な虚血に引き続いて起こる虚血に対して抵抗性(虚血耐性)を示すプレコンディショニングと呼ばれる現象を脊髄保護の領域でも臨床への導入が期待されている.これらのことを含めて、この講演では麻酔科医が臨床上で脊髄保護に関与できる可能性について言及する。