教育講演(31

医療事故に学ぶ麻酔科的危機管理

滋賀医科大学医学部附属病院医療安全管理部

 

坂口美佐

 

危機管理ということばは、一般的には事故発生後の対応に関する場面で用いられることが多い。しかし、麻酔科領域における危機管理とは、刻々と変化する動的な環境において、患者の安全を確保し管理していくことにほかならない。麻酔に関連する事故には、いわゆる組織事故に該当するものが含まれており、その危機管理のヒントは他産業から得られることが少なくない。例えば航空業界においてはCrew Resource Management (CRM)の訓練が行われている。CRMの目的は、航空機内の限られた資源を最も有効に活用しながら安全かつ効率的な運航を実現することである。限られた資源という点では手術室においても同様ではないだろうか。手術室内の資源、すなわちヒト、モノ、情報など全てを有効に活用しながら患者の安全を守り手術を運営していくことは麻酔科医の使命であり、CRMをはじめとして航空業界から学ぶべき点は多いと考えられる。また、インシデント報告と分析の手法は、医療においては麻酔科領域でいち早く導入され研究が行われている。重大な事象のみならず軽微な事象でも情報を収集して分析を行い共有することで、類似した事象や大事故の未然防止に繋げることができる。麻酔科は、医療における他の領域に先駆けて安全への取り組みを推進し、成果を上げてきたといわれている。麻酔の安全性向上は、麻酔薬やモニタリング技術の進歩によるところも大きいが、事例から学ぶこともまた重要である。医療事故事例を通して組織事故とその対策について述べ、麻酔科的危機管理について考える一助としたい。