周術期の脳循環を理解するために―脳血流を保つための機構―

 

1浜松医科大学 光量子医学研究センター

山本 清二1

 

脳循環に対する麻酔や疾患の影響を理解するためには,脳血流を保つためのメカニズムを理解する必要がある。ここでは、代表的な脳循環維持機構である血圧変動に対する脳循環制御について概説し、高血圧、加齢、脳神経疾患、薬剤がその調節機構にどのような影響をおよぼすかについて述べる。血圧変動が起こっても、それが平均血圧60から150 mmHgの範囲内であれば脳循環はほぼ一定に保たれる(2〜7%/10 mmHg程度の変動という説もある)。これを脳血流自動調節能(autoregulation)と呼ぶが、このメカニズムは、延髄孤束核の関与に代表されるneurogenic theory、局所のH+、K+、adenosine、prostaglandinなどが関与するとされるmetabolic theory、血管内圧の変化に対する血管平滑筋の反応に首座を求めるmyogenic theoryなど諸説がある。血管径と脳血流は、血圧変化が起こってから10秒以内に変化し始め60秒までには反応し終える。つまり脳血流自動調節能の範囲内とされていた体血圧の変化においても、血圧変化が急速な場合には(数秒から10数秒間の変動に対して)、脳血流は影響を受けやすいことを意味し、その影響の大きさは血圧変動の速さに依存することになる。高血圧、虚血、加齢により自動調節能は右方向にシフトしていると考えられ、血圧低下に対する脳血流保持能が低下している。また、無症状でも主幹動脈に動脈硬化に基づく狭窄・閉塞が存在する場合、血圧下降に対する自動調節能は低下していると考えられ、術前評価として留意すべきである。