招聘講演(9)

光マイクロイメージングが切り拓く分子と細胞の新世界

浜松医科大学 光量子医学研究センター

寺川 進

 

光を使うことで、細胞や組織の機能を、分子レベルに達する情報として、動的に捉えることができる。簡単な光ファイバー素子で 1 nmの動きを容易に検出できる。この装置を用いて神経細胞の細胞膜の動きを高い精度で測定すると、細胞膜がインパルスの発生に際して1 nm以上厚さを変化させる。リドカインのような局所麻酔薬はこの反応を抑え細胞膜を硬くする効果を持つ。微分干渉顕微鏡を用いると、線毛細胞の動きを定量的に観察できる。水生動物では嗅覚神経細胞の線毛運動が盛んである。我々は、浸透圧刺激がこの線毛運動を大きく変化させることを見出した。蛍光法やビデオ顕微鏡法で、細胞膜タンパクのリサイクリングや構造変化を分子レベルで観察できる。粘液の分泌反応に伴って水が分泌される様子を細胞の現場で見られる。信号分子の放出時には細胞から水が噴出される。組織の破壊ではATPが放出され、それが周辺の細胞にCa信号を発生させ、これが痛みを生む基本となる。我々は、そのような反応に広く抑制的にはたらく拮抗剤を見出した。演者らによる超高開口数の対物レンズの新開発で、分子一個のイメージが容易に捉えられる。また、演者らが開発したファイバー結合式顕微鏡を用いると、生きた動物の体内の細胞を観察できる。光と光イメージングの手法は、動物個体のようなマクロな対象の観察においても大変有用であり、内視鏡や、手術ナビ、遠隔医療にと、多くの臨床的な課題にその応用展開を広げている。それらは、麻酔科における診断と治療にも新しい手法を提供する可能性を持つ。