招聘講演(10)

ペインクリニック領域における眼瞼の意義

 

栗橋眼科

 

栗橋 克昭

ペインクリニック領域で疼痛性疾患(眼痛、頭痛、肩こり、腰痛、関節痛など)や非疼痛性疾患(眼瞼痙攣、顔面神経麻痺、書痙、アレルギー性鼻炎など)に対して神経ブロックなどが行なわれている。上記疾患や鬱、流涙、ドライアイなどの患者の睫毛に約3gのクリップを付けて重り負荷をすると、瞼が十分に開かなくなることがほとんどである。セロテープ、手指、鉢巻で瞼を吊り上げると諸症状が改善することが多い。眼瞼下垂症手術を行なうとクリップで負荷しても眼瞼挙上が可能になり、諸症状がしばしば改善する。正常に見える瞼の異常の発見に、上記の睫毛クリップ負荷テストや瞼吊り上げ治療が有用である。眼瞼挙上は爪先立ちして踵を上げることと同じである。瞼にも踵、アキレス腱、腓腹筋に相当するものがある。瞼板は踵で、挙筋腱膜がアキレス腱で、眼瞼挙筋が腓腹筋である。腓腹筋が収縮しアキレス腱を引くと踵が上がる。眼瞼挙筋が収縮し挙筋腱膜を引くと瞼が上がる。アキレス腱断裂はすぐに自覚する。挙筋腱膜が瞼板から外れても、瞼の異常は目立たず、頭痛、肩こりなどを自覚するようになる。しかし瞼に原因があると自覚している人は少ない。腱膜が外れても瞼が挙上できるのは、挙筋腱膜の背後にあるミュラー筋という交感神経支配の平滑筋が代償性に収縮するからである。腱膜が外れると交感神経を緊張させ、ミュラー筋近位部に局在する機械受容器の感度を上げて開瞼するようになる。そのため開瞼はできるが、交感神経過緊張に基づく症状が出てくる。瞼は単なる眼の蓋ではなく青斑核を介する覚醒のためのスイッチであるという松尾理論はペインクリニシアンとしてぜひ理解しておくべき領域であろう。