招聘講演(16

 

臨床研究のデザイン

 

京都大学大学院医学研究科

林野 泰明

 

臨床研究という言葉はさまざまな意味で用いられている。検査値や画像所見と疾患の有無などの関連を検討する「臨床検査研究」や、薬剤の治験や臨床試験などの研究と同義と考えられがちであるが、臨床研究が包含する領域は非常に広い。医学の最新の知見を検証する臨床試験は重要であるが、医学の最新の成果を早く、安全に、適切に患者の手元に届けるという国や医学界に課せられた課題を達成するためには、それだけでは不十分である。そのためには、臨床試験に加えて診療レベル、個人レベル、社会レベルにおけるマルチレベルの取り組みが必要である。薬剤疫学研究(安全性)、アウトカム研究(実際の診療現場でのエビデンス)、医療の質評価研究(エビデンスと診療のギャップの測定と改善)、医療の経済性の評価や医療政策に関する研究(エビデンスの効率的な活用)などがそれに含まれる。

さまざまなレベルの研究の中で実臨床に関わる医師が臨床研究領域において果たすべき役割は、医療現場の最前線において未解決な問題点を認識し、その問題を定式化して研究デザインの枠組みに落とし込み、現場立脚形のエビデンスを生み出していくことである。全ての問題点を臨床研究の遡上に載せることが可能なわけではないため、良い臨床研究を行うためには臨床研究デザインの多くの引き出しを準備しながらリサーチクエスチョンを具体化する必要がある。クロスオーバーデザインや傾向スコア、操作変数法などはこの10年間で使われる頻度が高くなってきた新しい手法であるが、このように日々進化する臨床研究のデザインにキャッチアップすることにより、検討可能な臨床上の問題の幅を増やすことが可能である。